お題『予定のない平日のクリスマス』
マフラーに顔を突っ込んで駅前のイルミネーションを一気に抜けた後、
女の子が店の前で寒そうにしながら売ってるラスイチの半額ケーキを買って仕事から帰る。
誰にともなくただいまーと言いながら玄関の扉を開け、
粗雑にパンプスを脱ぎ捨ててコートとマフラーをハンガーにかけて部屋の電気をつけたとき、
部屋の真ん中にサンタクロースが鎮座ましましていることに気づいた。クリスマスだなあ。
わたしはひとまずうっすらリップの色の移ったマスクをゴミ箱に捨ててからエアコンをつけて加湿器に水を入れた。
その間やつはじっとこっちをみているだけだった。何かする様子はない。
今はそんなことよりコンタクトがゴロゴロして気持ち悪い。いいや外しちまえ。
「ケーキいる?なんとなく買ってきちゃったんだけど、今甘いものの気分じゃないんだよね」
やつとの距離感をはかろうと(うまいこと言った)話しかけてみる。
てかサンタクロースって人前にでていいんだっけ?
「プレゼント…」
やつはコミュ障気味にそういった。見た目より可愛らしい声だった。
女役のときの村瀬歩くらい。ごめん嘘。そんなわけないわ感覚マヒしてるだけだわ。
「わたしそんな年じゃないんだけど」
家用のメガネは高校の時に買ってもらった安い赤いプラスチックのやつ。
若くじゃなくて幼く見えるからこれをかけたら玄関に来客があってももう出ない。
化粧を落とすのまではダルいからあとでやる。あとでちゃんとやるから。やるって!
洗面所からキッチンへ行く。
調理して冷凍しておいた鶏むねのひき肉を解凍して、
野菜室でしなびてた葉野菜を適当にハサミで切ったものと和えて買い置きの豆腐に乗せた。
マグカップにルイボスティーのパックを入れたところでお湯がないことに気付きため息をついてポットに水を入れるまでがいつものルーチン。
手抜き夕食をもってテーブルまで行くと、そういえばやつはいなくなっていた。
かわりに小さな箱が置いてあった。
ガン無視するかたちになっちゃったのちょっとかわいそうだったかな。
「…メリー…やっぱやめ、いただきます」
もそもそと夕食を摂り始める。
味に意識がいかないようにいつもなら携帯で動画を流し見るんだけど、
今日はなんとなくそんな気分にならなかった。
箸をくわえながらやつの置いていった箱に目をやる。
どういう理屈で飛んだのか今食べてるひき肉がついていた。
包み紙をびりびりと破いて中をみると絶妙にダサい写真立てが出てきた。
「サンタのくせにプレゼント選びのセンスのなさ」
ああ、だからみんなプレゼントをリクエストするのか。
いやそれともリクエストされたプレゼントしかあげてこなかったから自分で選ぶセンスがないのか。
なんとなく、昔の彼のことを思い出した。
Xで創作のネタを募集したときにいただいたお題でSSを書いてみました。
お題は雛形さん(https://x.com/template_zero1)よりいただきました。
ありがとうございます!